非上場株式の評価④
非上場株式の評価方法にはインカム・アプローチによる方法、マーケット・アプローチによる方法、ネットアセット・アプローチによる方法があります。
採用すべき評価アプローチの選定
特定の場面では特定の評価アプローチを必ず採用すべきであるとはいえません。
採用すべき評価アプローチはもちろん、それぞれのアプローチの中で具体的にどういった評価法を用いるべきか、どのような前提条件を置くべきかといったことは、個々の場面によって変わるものと考えるべきです。
すなわち、評価目的、対象となっている企業価値を取り巻く環境、それぞれの評価アプローチが持つ特徴、業種的な特性、その他各種要素に鑑みながら、適切と思われるアプローチを選定する必要があります。
評価法ごとの長所・短所
企業価値等形成要因は評価対象会社によって様々であり、評価法にはそれぞれ長所・短所があります。
例えば、インカム・アプローチにより評価された算定結果は、評価対象会社固有の性質を反映できるという長所があるものの、客観性にやや欠けるという短所があります。
マーケット・アプローチによる評価方法は、市場の取引環境の反映や一定の客観性には優れているものの、評価対象となっている企業固有の性質を反映できないという短所があります。
ネットアセット・アプローチは貸借対照表記載の金額を基に算定しますので、客観性に優れているという長所があるものの、将来の収益獲得能力を反映しづらいという短所があります。
評価対象会社の状況による評価法の選択
当該評価対象会社の価値形成要因が単純で、それを評価する方法として特定の評価法が適切であると判断された場合には、単独法が採用されますが、そうでないと評価人が判断した場合には、複数の評価法を採用し、併用法又は折衷法のいずれかで総合評価を行うことになります。
評価アプローチを考える際、留意すべき事項を例示すると、
①成長基調か、安定した業況にあるか、又は衰退基調にあるかといった評価対象会社のライフステージ
②会社の継続性に疑義があるかどうか
③知的財産等に基づく超過収益力を持つ企業かどうか
④類似上場会社のない新規ビジネスかどうか
といった点となります。
上記のような留意点を考慮しながら、評価対象会社をインカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチのそれぞれの視点から把握し、評価対象会社の動態的な価値や静態的な価値について多面的に分析し、偏った視点のみからの価値算定にならないよう留意する必要があります。
そして、それぞれの評価結果を比較・検討しながら最終的に総合評価するのが実務上一般的です。
総合評価
株式の総合評価には主に併用法と折衷法があります。
併用法では、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチといった複数の評価法を適用し、それぞれの評価結果につき一定の幅をもって算出されたそれぞれの評価結果の重複等を考慮しながら評価結果を導きます。
折衷法とは、複数の評価法を適用し、それぞれの評価結果に一定の折衷割合(加重平均値)を適用する方法です。
インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチのそれぞれのアプローチに属する複数の評価法を選択し、各評価法の結果に一定の折衷割合を適用して総合評価を行います。
折衷法は、評価結果により差異が生じ、いずれかの評価法を加重平均した方が妥当なケースにおいて適用しやすい方法です。
折衷割合に関しては、評価人の合理的な判断によることになります。
非上場株式の評価が難しいのは、上場株式のように需要と供給で決定される客観的な指標が存在しないためで、客観的指標がないことから、評価する目的や評価する主体により異なる算定結果が出ることがあるため、理解しづらいものとなっています。
また、決まった方法で画一的に評価できないことだけではなく、提供された情報の信憑性や将来予測の困難性、評価する側の能力の限界等により評価結果が大きく変動してしまうことにあります。
最後に
非上場株式の評価にあたり最も重要なことは評価対象会社の方の話を聴くことではないかと考えます。
マネジメントだけでなく、現場で作業されている方のお話を聴く事もとても重要だと思います。
評価対象会社をよく理解し、数字に表れない会社の強み・弱みや経営理念、人間関係も長期的にみれば会社の収益力に反映されてくると思うからです。
また、提供される資料の客観性や信憑性についても、いろいろな立場の方の話を聴くことで自ずと理解できるようになるのではないでしょうか。
【関連記事】
非上場株式の評価①
非上場株式の評価②
非上場株式の評価③
※この記事は2018年9月に公開し、2022年3月に加筆修正して再公開しています。
最新の情報など詳しくは当事務所にお問合せください。