相続税の納税方法は、原則として金銭による一括納付とされていますが、一定の条件を満たせば、特例として延納(金銭による分割納付)または物納(一定の相続財産そのものによる納付)も認められます。
それぞれの方法の概要は、下記の通りです。
原則:金銭による一括納付
相続税の申告書を提出し、納付すべき相続税額のある者(相続税の納税義務者)は、その申告書の提出期限までに、その申告書に記載した相続税額に相当する相続税を金銭で一括して国に納付しなければなりません。
特例その1:延納
相続税の納税義務者は、次の要件の全てを満たす場合において、税務署長の許可を受けたときは、その納付すべき相続税額のうち納付が困難であると認められた金額を限度として、一定期間内に金銭による相続税の年賦延納(年一回ずつの分割払い)をすることができます。
延納の要件
- 納付すべき相続税額が10万円を超えること
- 納期限までにまたは納付すべき日に金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内であること。
- 延納税額及び利子税の額に相当する担保を税務署長に提供すること。
ただし、延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である場合は、担保の提供は不要です。 - 延納を求めようとする相続税の納期限までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること。
延納期間
延納の期間は、原則として5年以内ですが、課税相続財産の価額(※1)のうちに占める不動産等(※2)の価額の割合に応じて、下表の通り、一定部分の延納税額については5年よりも長い期間として認められることもあります。
対象となる延納税額 | 不動産等の価額の割合 | ||||
50%未満 | 50%以上 75%未満 |
75%以上 | |||
延 |
原 則 |
動産等に係る延納税額 | 5年以内 | 10年以内 | |
不動産等に係る延納税額 | 15年以内 | 20年以内 | |||
特 則 |
森林計画立木に係る延納税額 | 20年以内(※3) |
※1.課税相続財産の価額とは、相続または遺贈により取得した財産で相続税額の計算の基礎となったものの価額の合計額をいいます。
※2.不動産等とは、不動産(たな卸資産であるものを含む。)、不動産の上に存する権利、立木、事業用の減価償却資産並びに特定同族会社の株式及び出資をいいます。
※3.森林計画立木の価額の割合が20%以上の場合に限られます。なお、特定森林経営計画または平成14年4月1日以降に市町村長等から認定を受けた森林経営計画で一定の要件を満たすものに対応する場合は、最長40年となります。
ただし、課税相続財産の価額のうちに不動産等の価額が占める割合が50%以上または75%以上の場合であっても、延納税額が150万円未満または200万円未満であるときは、延納期間の上限は、延納税額を10万円で除して得た数(1未満の端数切上)に相当する年数となります。
延納の利子税
延納の許可を受けた者は、分納税額を納付する場合においては、納期限または納付すべき日の翌日からその分納税額の納期限までの期間に応じて、一定の割合に基づき計算した金額に相当する利子税を、延納税額にあわせて納付しなければなりません。
2021年1月1日以降の期間に適用される利子税割合(特例割合)は下表の通りとなります。
不動産等の価額の割合 | 対象となる延納税額 | 利子税割合 |
75%以上 | 動産等に係る延納税額 | 0.7% |
不動産等に係る延納税額 | 0.4% | |
森林計画立木に係る延納税額 | 0.1% | |
50%以上75%未満 | 動産等に係る延納税額 | 0.7% |
不動産等に係る延納税額 | 0.4% | |
森林計画立木に係る延納税額 | 0.1% | |
50%未満 | 一般の延納税額 | 0.8% |
立木に係る延納相続税額 | 0.6% | |
特別緑地保全地区等内の土地に係る延納相続税額 | 0.5% | |
森林計画立木に係る延納税額 | 0.1% |
特例その2:物納
相続税の納税義務者は、次の要件の全てを満たす場合において、税務署長の許可を受けたときは、その納付すべき相続税額のうち延納によっても金銭での納付が困難であると認められた金額を限度として、相続税の物納(金銭以外の一定の相続財産による納付)をすることができます。
物納の要件
- 延納によっても、納付すべき相続税額を金銭で納付することを困難とする事由があること。
- 物納申請財産は、納付すべき相続税額の課税価格計算の基礎となった財産のうち日本国内に所在するもので、下表の⑴~⑸の順位に従っていること。
順位 | 物納申請財産の種類 | |
第1順位 | ⑴ | 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等(注) |
⑵ | 不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの | |
第2順位 | ⑶ | 非上場株式等(注) |
⑷ | 非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの | |
第3順位 | ⑸ | 動産 |
(注)特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券を含み、短期社債等を除く。
なお、後順位の財産は、税務署長が特別の事情があると認める場合及び先順位の財産に適当な価額のものがない場合に限って物納に充てることができます。
また、特定登録美術品(美術品の美術館における公開の促進に関する法律第2条第3号に規定する登録美術品で相続開始の時において既に登録を受けているもの)については、上記の順序にかかわらず一定の書類を提出することにより物納に充てることができます。
- 物納に充てることができる財産は、管理処分不適格財産に該当しないものであること及び物納劣後財産に該当する場合には、他に物納に充てるべき適当な財産がないこと。
- 物納しようとする相続税の納期限(物納申請期限)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署長に提出すること。
物納財産の価額(収納価額)
物納財産を国が収納するときの価額は、原則として相続税の課税価格計算の基礎となったその財産の価額(相続税評価額)になります。
ただし、収納の時までにその財産の状況に著しい変化が生じたときは、収納の時の現況により税務署長がその財産の収納価額を定めることができます。
なお、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用を受けた相続財産を物納する場合の収納価額は、その特例を適用した後の価額となります。
※この記事は2017年7月に公開し、2022年3月に加筆修正して再公開しています。
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