相続税に関する優遇措置の中でも、適用することができれば税負担を大きく軽減する可能性のあるものとして、小規模宅地等に係る相続税の課税価格の計算についての特例があり、これを有効活用できるかどうかはとても重要となります。
その特例の対象となる宅地等としては、特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等、特定居住用宅地等及び貸付事業用宅地等の4類型があります。
ここではその4類型のうち、多くのケースで想定されるであろう、特定居住用宅地等の特例を取り上げます。
特定居住用宅地等の特例の概要
特定居住用宅地等の特例は、相続開始直前における被相続人や被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族(以下、「同一生計親族」)の居住用の宅地等(土地または土地の上に存する権利。以下同じ。)を相続・遺贈により取得した個人が一定の要件を満たす場合に、相続税の課税価格の計算上、限度面積(※)の範囲内でその宅地等の価額について80%相当額を減額する、というものです。
※特例の選択をする宅地等が特定居住用宅地等のみである場合または特定居住用宅地等、特定事業用宅地等及び特定同族会社事業用宅地等の組み合わせであるには、特定居住用宅地等についての限度面積は330㎡となりますが、特定居住用宅地等と貸付事業用宅地等の特例を組み合わせて特例の選択をする場合には、限度面積について一定の調整が必要となります。
特定居住用宅地等の適用要件には、その適用パターンによって様々なものがありますが、要約すると下表の通りとなります。
相続開始直前の利用状況 | 宅地等の取得者 | 取得者等ごとの要件 |
被相続人の居住用宅地等 | ①被相続人の配偶者 | なし |
②同居親族 | 相続開始直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住していること | |
その宅地等を相続税の申告期限まで有していること | ||
③非同居親族(①②以外の者) | 居住制限納税義務者または非居住制限納税義務者のうち、日本国籍を有しない者でないこと | |
被相続人に配偶者がいないこと | ||
相続開始直前における被相続人の居住用家屋に、同居していた法定相続人(相続税法上の相続人)がいないこと | ||
相続開始前3年以内に、日本国内にある取得者・取得者の配偶者・取得者の三親等内の親族等が所有する家屋(相続開始直前における被相続人の居住用家屋を除く。)に居住したことがないこと | ||
相続開始時に取得者が居住している家屋を、相続開始前のいずれの時においても取得者が所有していたことがないこと | ||
その宅地等を相続税の申告期限まで有していること | ||
被相続人の同一生計親族の居住用宅地等 | 被相続人の配偶者 | なし |
その同一生計親族 | 相続開始前から相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住していること | |
その宅地等を相続税の申告期限まで有していること |
二世帯住宅の敷地に関する特定居住用宅地等の特例の適用
二世帯住宅の敷地についても、特定居住用宅地等の特例を適用することができます。
ただし、二世帯住宅の敷地について特定居住用宅地等の特例を適用する上では、先述の表に記載されている要件を満たすことの他に、その二世帯住宅が区分所有建物として登記されているものであるか否かが重要なポイントになります。
その登記の状況に応じた留意点は、下記の通りです。
二世帯住宅(家屋)が区分所有建物として登記されている場合
この場合には、相続開始直前において被相続人の居住していた部分に対応する敷地面積のみが、被相続人の居住用宅地等として取り扱われることとなり、被相続人以外の親族の居住していた部分に対応する敷地面積については、特定居住用宅地等の特例の適用はありません。
二世帯住宅(家屋)が区分所有建物として登記されていない場合
この場合には、相続開始の直前において被相続人の居住していた部分に対応する敷地面積に加え、被相続人以外の親族の居住していた部分に対応する敷地面積も含め、被相続人の居住用宅地等として取り扱われ、これらの面積を合わせたところで特定居住用宅地等の特例の適用を受けられます。
このように、登記の状況次第で特定居住用宅地等の特例を適用できる敷地面積が異なる場合がありますので、留意が必要です。
二世帯住宅の敷地の場合、登記の状況の他に、もちろん先述の要件を満たすことも大切ですので、相続が発生した際に慌てることのないようあらかじめ確認・検討しておくことが好ましいと考えられます。
被相続人の老人ホーム入居後に空き家となっている家屋の敷地について
このような状況の敷地についても、特定居住用宅地等の特例を適用できるかどうかは気になるところです。
相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていなかった宅地等であっても、下記に掲げるような事情があり、先述の表に記載されている要件を満たす場合には、特定居住用宅地等の特例を適用することができます。
要介護認定または要支援認定を受けていた被相続人が次の(1)~(8)に掲げる住居・施設に入居・入所していたこと。
(1)認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居
(2)養護老人ホーム
(3)特別養護老人ホーム
(4)軽費老人ホーム
(5)有料老人ホーム
(6)介護老人保健施設
(7)介護医療院
(8)サービス付き高齢者向け住宅(上記(5)以外のもの)
障害支援区分の認定を受けていた被相続人が障害者支援施設等に入所・入居していたこと。
このように、介護や生活支援の必要性から被相続人が元々住んでいた家に住めなくなったとしても、特定居住用宅地等の特例を適用できる余地があります。
ただし、元々住んでいた家屋を、被相続人の居住の用に供さなくなった後に事業用または被相続人・同一生計親族(被相続人と上記施設への入居・入所の直前において生計を一にし、かつ、元々住んでいた家に引き続き居住している親族を含む。)以外の者の居住用とした場合には、この特例を適用することはできませんので、留意が必要です。
特定居住用宅地等の特例を適用できるかどうかで相続税の負担が大きく変わることは少なくありませんので、いかにこの特例を適用できるようにするかが極めて重要となります。
※この記事は2018年3月に公開し、2022年7月に加筆修正して再公開しています。
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