家なき子特例の改正論点
平成30年度の税制改正において、小規模宅地等の特例のうち、特定居住用宅地等に関して改正が行われました。行き過ぎた節税を防止するために行われた改正なのですが、今回は、どのような点が改正されたのかを解説します。
家なき子特例とは
平成30年度で改正された点は、特定居住用宅地等に関する要件のうち、いわゆる「家なき子特例」の適用要件です。
家なき子特例とは、例えば、一人暮らしの父が亡くなり空き家になった実家を転勤中で借家住まい(家なき子)の長男が相続したとします。この場合に該当すると、実家の敷地330㎡まで80%減額することができます。亡くなった父には配偶者も同居の親族もおらず、別居中の長男には持ち家がありません。長男がいずれ戻ると想定される実家は、特定居住用宅地等に該当し、相続税評価額80%減額が認められています。
相続開始前3年の間、相続人に持ち家がなければ、家なき子に該当することができるため、この「家なき子特例」は節税スキームとして使われることがありました。例えば、持ち家のある相続人が、その家屋を兄弟等に譲渡等することで、意図的に持ち家がない状況を作り出せば、家なき子に該当し、家なき子特例を適用できるのです。このような意図的な節税を防止するため、次のような改正が行われました。
改正前と改正後の要件を比較します。
改正前(平成30年3月31日以前の相続)
次の1~5の要件の全てを満たすこと
5.相続開始前3年以内に日本国内にある取得者又は取得者の配偶者が所有する家屋(相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除きます)に居住したことがないこと。
改正後(平成30年4月1日以後の相続)
次の1~3の要件の全てを満たすこと
3.相続開始時に、取得者が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと。
改正前は、本人又は配偶者が所有する家屋に居住したことがない、との要件でしたが、改正により、本人又は配偶者だけではなく、三親等内の親族及び特別の関係がある法人が追加されました。さらに、相続開始時に居住していた家屋を過去に所有していたことがある場合は除かれることになりました。
改正後の家なき子特例と海外の居住家屋
改正後の家なき子特例の要件の一つとして、被相続人が居住していた宅地等を取得した親族が「相続開始前3年以内に三親等内の親族等が所有する家屋に居住したことがないこと」があります。
ここでいう「三親等内の親族等が所有する家屋」は、国内の家屋が対象となっています。そのため、宅地等を取得した親族が「三親等内の親族等が所有する家屋」に居住していても、その家屋が海外の家屋であれば、家なき子に該当する可能性があります。
改正後は、「三親等内の親族等が所有する家屋」に居住していた場合でも家なき子に該当しなくなったわけですが、その家屋が、“相続税法の施行地内(国内)”の家屋に限定されている点は、改正前後で同様です。
例えば、一人暮らしの父が亡くなり、実家の敷地を相続した長男が、相続開始前3年以内に、叔父が所有する国内の家屋に居住していた場合には、“相続税法の施行地内”にある「三親等内の親族等が所有する家屋」に居住していることになるため、改正後の“家なき子”には該当しません。
一方で、長男が海外に留学しており、叔父の所有する海外の家屋に居住していた場合には、“相続税法の施行地内”にある「三親等内の親族等が所有する家屋」には居住していないことになりますので、その他の要件を満たせば、改正後の“家なき子”に該当します。
経過措置
家なき子特例の改正は、平成30年4月1日以後の相続又は遺贈から適用されます。しかし、納税者にとって不利な改正であることから経過措置が設けられています。
どのような経過措置かというと、令和2年3月31日までに発生した相続については、下記条件を満たせば改正前の適用要件で家なき子特例を適用することができます。
経過措置が適用される条件
平成30年3月31日において改正前の家なき子特例の要件を満たしていた宅地を相続又は遺贈により取得すること。
つまり、平成30年3月31日時点で①親族が改正前の家なき子(過去3年間持ち家なし)に該当し、②被相続人が一人暮らしであれば経過措置が適用されます。
経過措置が認められる場合の具体例としては、長男が長男名義の家を同居する自分の息子に贈与した、という場合があります。この場合、改正後は家なき子特例は認められません。しかし、平成30年3月31日までに贈与を実行している場合だと経過措置が適用され、令和2年3月31日までに相続があれば家なき子特例を使うことが可能です。
※この記事は2018年12月に公開し、2022年7月に加筆修正して再公開しています。
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