事業承継(株価対策)
事業承継に際し株価対策が必要となるケースがあり、その多くが中堅中小企業の世襲により事業が承継される場合です。
今回は株価対策として自社の株価を分析し、株価を上昇させている要因は何かを特定した上で、その要素を引き下げる方法を考えます。
評価方法
中堅中小企業の株価は、類似業種比準方式と純資産価額方式の折衷法により算定されます。
(会社の規模により両者のどちらかを多く用いるかが変わります。)
類似業種比準方式は「配当」、「利益」、「純資産」の3要素と、「類似業種の株価」から算定されます。
評価方法(要素)ごとの株価対策
「配当」については、配当を減らす、または止めると株価を下げることが出来ます。
株主との関係により配当をストップしたり下げることが難しいという場合には、特別配当や記念配当を出すことで通常配当を引き下げた部分をカバーするという方法も効果的といえます。
特別配当や記念配当のような毎期継続することができないものは、「1株当たりの年配当金額」の算定には含まれないためです。
「利益」については、利益を圧縮する方法として、
①含み損のある固定資産や有価証券を外部に売却する方法
②損金となる金額が多い保険商品へ加入する方法
③役員報酬を増額する方法や役員退職金を支給する方法
が考えられます。
また、会社に複数の部門・事業があり、その中に利益を多く生み出す部門があれば、株価を引き上げる要因となります。
そこで会社分割を利用して、高収益部門を分離し、別会社にする方法も考えられます。
もしくは、後継者が株主となって新会社を設立し、そこに高収益部門を移す方法なども考えられます。
純資産価額方式による株価は、会社の内部留保や保有する資産・負債の相続税評価額に影響を受けます。
このため、類似業種比準方式に影響する要素と比較して短期的な対策でなく中長期的な計画に基づき十分な対策を講じることが必要となってきます。
純資産価額方式による株価を引き下げるため方法として、
①役員退職金を支払う方法
②賃貸物件を建設する方法
③合併・会社分割を活用する方法
④会社区分を変更する方法
が考えられます。
法人が生前にオーナー社長に対して役員退職金を支給することは株価引き下げに有効です。
役員退職金の支給額が損金算入を認められるためには、次の要件を満たしていることが必要です。
①支給額が不相当に過大ではないこと(最終月額報酬×在任期間かける功績倍率(社長の場合3~5倍))
②役員を実質的に退いていること(引き続き役員として勤務する場合であっても常勤から非常勤になっていたり報酬が2分の1以下に減少していたりしていれば役員退職金は損金として認められます)
賃貸物件を購入することも株価引き下げに有効です。
純資産価額方式では、資産・負債ともに相続税評価額で評価されるため、賃貸物件を購入すると建物は実際の取引価額ではなく固定資産税評価額×(1-借家権割合30%)で評価されます。
また、土地は実際の取引価額ではなく路線価等による評価額×(1-借地権割合×借家権割合30%)で評価されることとなり、株価引き下げの効果があるといえます。
ただし、法人が不動産を取得した場合には不動産の取得後3年間は通常の取引価額で評価されることになり、株価引き下げの効果が全くないことになります。
この点においても純資産価額方式における株価引き下げは中長期的なスパンで考える必要があるといえます。
組織再編を利用して株価を引き下げる方法もあります。
例えば、オーナー社長が会社を2つ以上保有しており、時価ベースで欠損金が生じている赤字会社がある場合、当該赤字会社を合併することで純資産の総額を減らすことが可能となります。
非上場株式の株価算定にあたり、原則的評価法としてどのような算定方式が適用されるかは、従業員数、総資産額、取引金額等に応じた会社区分で決定されます。
一般に、株価対策が必要な優良企業は内部留保が大きいため、純資産価額のほうが類似業種比準価額より株価が高くなります。
そこで、合併や買収を実施することにより類似業種比準価額が適用されるように会社区分を変更する方法も考えられます。
ただし、株価引き下げのためだけに組織再編を実施することは長期的にみて会社存続を危うくする危険性もあり、自助努力により従業員を増やし、売上高を伸ばすまたは借入れにより資産を購入するという方法が一般的には有効であると考えられています。
以上、事業承継の場面での株価対策の概要を記載しました。
主に株価を引き下げるための対策方法を記載しましたが、平成30年度税制改正により「非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予及び免除の特例」(事業承継税制)を利用すれば、後継者が現経営者から自社株式を贈与あるいは相続・遺贈によって取得した場合、一定の条件を満たして所定の手続きを行うと、贈与税・相続税の納税が猶予されるという方法もあります。
自社や従業員を含む後継者にとって最善と思われる方法で、なおかつ節税が可能な方法を選択することが望ましいと考えます。
※この記事は2018年9月に公開し、2022年3月に加筆修正して再公開しています。
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