同族会社側の留意点
地主が所有している土地を有効活用するため、自身の同族会社(法人)に土地を貸し、その上に建物を建築するというのはよくある話ですが、土地の貸付によって同族会社側で思いもよらぬ税負担が生じる恐れがあります。
具体的には、土地の貸借に当たり、通常は権利金を収受する慣行のある地域において権利金の授受が行われないときは、下記(1)または(2)のいずれかに該当する場合を除き、同族会社に借地権の認定課税(借地権を無償で譲り受けたものとして、法人に受贈益が計上されること)が行われる可能性がありますので、留意が必要です。
(1)その土地の価額からみて、相当の地代を収受している場合
(2)その借地権の設定等に係る契約書において借地人が将来その土地を無償で返還することが定められており、かつ、借地人と連名で遅滞なく「土地の無償返還に関する届出書」をその法人の納税地の所轄税務署長に提出している場合
土地の価額にもよりますが、借地権の認定課税が行われてしまった場合には、同族会社に重い税負担が生じることもあり得ます。
借地権の認定課税が行われないようにするには
借地権の認定課税が行われないようにするための最も簡単な方法は、土地の無償返還に関する届出書を提出すること(上記(2)のケース)です。
これ以外の方法として、土地の貸借をする上で、土地の価額からみて相当の地代の授受を行うこと(上記(1)のケース)が考えられますが、実際に授受される地代が相当の地代よりも少ないときは、借地人(同族会社)にそれらの地代の差額に相当する金額の贈与があったものとして取り扱われてしまう(同族会社に差額相当の受贈益が計上されてしまう)ため、地代の設定に当たっては、それを「相当」の金額とすることに留意が必要です。
相当の地代の額は、原則として、その土地の更地価額の概ね年6%程度の金額とされています。
土地の更地価額とはその土地の時価のことですが、課税上弊害がない限り、次の①や②の金額をもって土地の更地価額とすることも認められています。
①その土地の近くにある類似した土地の公示価格などから合理的に計算した価額
②その土地の相続税評価額またはその土地の相続税評価額の過去3年間における平均額
なお、相当の地代については、概ね3年以下の期間ごとに見直しを行う必要があります。
地主側の土地の相続税評価
借地権の認定課税を避けるためには一般的に、土地の無償返還に関する届出書を提出する場合が多いと思われますが、その届出書が提出されている場合においては原則として、その土地の自用地としての価額の80%相当額をもって、借地権の設定対象となった土地の相続税評価額とします(自用地としての価額から20%相当額が控除されます)。
ただし、その届出書が提出されている場合であっても、借地権の設定対象となった土地が使用貸借(例えば、地主と借地人との間で土地の固定資産税相当額以下の金額の授受があるに過ぎないもの)により利用されているときは、その土地の相続税評価額は、その土地の自用地としての価額そのものとなります(自用地としての価額から20%相当額が控除されません)。
同族会社の株式評価上の留意点
先述の(1)または(2)のケースでは、同族会社の株式の相続税評価額を算定するに当たって、借地権の価額(土地の自用地としての価額の20%相当額)を純資産価額(相続税評価額)に算入する必要があります。
同族会社に貸している土地に対する小規模宅地等の特例
同族会社に貸している土地であっても、一定の要件を満たせば、小規模宅地等に係る相続税の課税価格計算の特例のうち、貸付事業用宅地等の特例または特定同族会社事業用宅地等の特例を適用することができますが、この特例の観点からしても、地代額の設定には留意が必要です。
土地を無償で使用させている場合は言うまでもありませんが、授受している地代が低廉であり、課税当局から土地の貸借が使用貸借と認定されてしまうような場合でも(土地の貸付が賃貸借によるものと言えなければ)、上記の特例を適用することができなくなってしまいます。
※この記事は2018年5月に公開し、2022年7月に加筆修正して再公開しています。
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