創業50年以上の事業会社の創業者が急逝し、相続人から「多額の相続税を期限までに納税しなければならない」とのご相談を受けました。当事務所では、申告納税期限という限られた時間の中で納税を完了させる方法を法律税務面から検討し、創業者の持ち株を譲渡(M&A)することにより、納税と事業承継を成功させた事案となります
事案の概要
X社の創業者であり同社の発行済株式総数の100%を保有していたA氏が亡くなりました。Aは亡くなる前日まで代表取締役社長として同社で精力的に働いており、Aの急逝は親族のほか全社員にとっても青天の霹靂であったといえます。
Aが保有する非上場株であるX社の株式はX社の事業規模からして莫大な評価額となることが確定的であり、その相続税額は数百億円規模と予想されていました。そのためAの生前に相続税対策は必須でありましたが、具体的な相続税対策が検討中の段階でAが急逝したため、Aの生前にその対策は実行されることはありませんでした。Aは、よもや自身が急逝するとは思いもよらなかったのであろうと思われます。
Aは自身の相続対策を成す前に亡くなったため、Aの相続人であるB氏は莫大な額の相続税納税という大きな問題を短期間に解決しなければならない状況に陥りました。
そこでBは、B自身が経営するY社の税務顧問を長年に渡り委任していた税理士法人朝日中央綜合事務所(当事務所)にBの父であるAの相続税申告業務を依頼することとしました。Bが当事務所に相続税申告を依頼した理由は、当事務所がグループ内に弁護士法人を擁しており、弁護士・税理士のトータルファームであるということです。
本件は弁護士と税理士がチームを組み、申告期限という限られた時間の中で数多くの厳しい難題を乗り越えた末に、依頼者Bの希望に叶うX社とのM&Aを成功させ、Bは申告期限内に無事に多額の相続税を完納することができたという成功事例です。
納税方法の検討および実施内容
Aの相続人であるBの依頼により、当事務所は相続税の期限内申告及び納税の完納を最大限の使命として次のとおり納税手段の検討を始めました。ただし、これらの納税手段はその要件が厳しく、しかも限られた期限までに相続税を納税しなければならないという極めて厳しい状況ではありました。
① 事業承継税制の適用による納税猶予
② 延納による納税
③ 物納による納税
④ 金融機関からの納税資金の融資
⑤ 当事務所主体による株式の譲渡(M&A)による納税資金の確保
これらの納税手段の検討結果は、次のとおりです。
先ず、①事業承継税制を適用して相続税の納税猶予の可否を検討しましたが、相続人が適用要件を満たしていないことが判明したため、事業承継税制による納税猶予の手段は断念しました。
続いて②の延納による納税ですが、相続財産の大半がX社の非上場株式であることにより最長20年の延納期間が選択可能ですが、それでも利子税を含めた年間の分納税額は高額となり、現実的に分納による延納は困難であると判断しました。
延納による納税が困難な場合、③物納による納税を検討することが可能となりますが、物納対象となるX社株式が管理処分不適格財産となるリスクもあり、その場合付帯税を含めた納税が困難に陥ることになりますので、物納による納税も断念せざるを得なくなりました。
④の金融機関の融資による納税資金の確保は、X社に関与する数行の金融機関が積極的に銀行融資による納税資金確保やM&Aを含めた数多くの納税方法を提案してきましたが、何れも長期にわたる銀行借入返済が負担となることや銀行主体のM&Aについては関係者間の足並みが揃わない危険性があり、申告期限までの納税資金確保は担保されず、結果、金融機関による提案も断念することになりました。
最終的には当事務所が主体となって、⑤納税資金確保のためにX社株式の譲渡を実行する方針となりましたが、X社の株式譲渡についてはその情報管理を徹底しながら、当事務所グループが独自のルートで選定した数社の買主候補者と厳しい売却価格交渉を行い、最終的には申告期限までに金銭一括納税を可能とする絶対条件をクリアできる買主候補1社に絞りました。
買主候補者が1社に絞られた時点では申告期限まで数か月しかなく、その間、相続人B、買主候補者、当事務所の3者間で毎日のように協議が行われ、また買主候補者によるデューデリジェンスやX社の幹部及びキーマンとなる社員との面談も行われました。中でもM&Aに難色を示すX社社員には当事務所より丁寧な説明がされ、またX社の債権者である金融機関にも株式譲渡に至った経緯を説明しました。この状況下において情報管理と情報共有のタイミングを如何にすべきかなど数多くの難局がありましたが、その結果、関係者間の合意の下にX社株式譲渡が行われ、Bは相続税を申告期限までに無事に納税することができました。
成功のポイント
本件は結果として申告期限までにX社のM&Aが成立し、相続人Bの多額の相続税を無事に完納することができたのですが、上述のとおり、本件は徹底した情報管理の下、買主候補者と厳しい売却価格交渉を行い、適正なタイミングでX社の幹部社員や一般社員への説明および関係金融機関等にも情報開示を行い、数多くの困難な局面を乗り越えた結果成し得た事案でありました。
このような厳しい状況におかれながらも本件が成功したのは、朝日中央グループの経験豊富な弁護士と税理士がチームを組んで徹底した情報管理の下にこれら困難な局面を乗り越えることができたのであり、別々の弁護士事務所と税理士事務所では(提携関係があったとしても)成し得なかった事案であると言えるのではないでしょうか。