遺留分とは
相続人のうち一人、又は特定の人に財産を相続させたいときは、遺言書を作り、その旨を実行させることが考えられます。
しかし、遺言書をもっても特定の人に全ての財産を承継させることは難しいと言えます。
それは「遺留分」とよばれる法律による最低限の権利が相続人に認められているためです。
下記は遺留分の帰属とその割合を示した民法の条文です。
遺留分の帰属とその割合
兄弟姉妹以外の相続人は,遺留分として,次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に,次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
2 相続人が数人ある場合には,前項各号に定める割合は,これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
この条文によると、法定相続人のうち兄弟姉妹以外の相続人について、遺留分として一定の割合が認められています。
原則的に遺言者は自分の意思で財産の処分ができますが、完全な処分を認めてしまうと、残された相続人の生活権の問題もあり、一定の範囲の法定相続人については一定の割合の財産承継を認めましょうというのが遺留分の考え方です。
そのため、遺言者と相続人の権利を調整するものとして遺留分という制度があると言えます。
では、遺留分を侵害する遺言書を作ることはできないのでしょうか。
遺言による遺留分の侵害が法律で認められないとしたならば、そのような遺言書自体が認められないと考えられますが、実際は遺留分を侵害する遺言書を作ることができます。
そのような遺言書通りに遺産の承継や相続が行われることもあります。
相続人が遺留分を侵害された場合には、遺留分の権利を主張しなければならないとされていますので、そのような遺言書があった場合でも、だれも権利を主張しなければ、その遺言は有効になってしまいます。
遺留分の具体例
【例】 「国に全ての財産を遺贈する」という遺言書があった場合
遺言者:夫 相続人:妻 子供一人 相続財産:1億円
上記の遺言書を残して夫が亡くなった場合には、遺言書によると全て国に財産が行きますので、残された妻や子供は全く財産を承継できないこととなります。
このままだとあまりに相続人がかわいそうと言うことで民法第1042条では遺留分として一定の保護をしています。
具体的に計算してみますと、
民法第1042条第1項の二では、前号に掲げる場合以外の場合、被相続人の相続財産の二分の一となっていますので、1億円×1/2=5,000万円が遺留分として認められることとなります。
(前号に掲げる場合とは直系尊属のみ=親となりますので、二は子供及び配偶者となります)
例の場合は、妻と子供一人なので2名で5,000万円の遺留分ですのでそれぞれ2,500万円ずつ認められることとなります。
遺言により遺留分の侵害
民法では、遺言による相続人の相続の割合を自由に決定することが認められています。
改正前民法第902条第1項では「ただし、遺留分に関する規定に違反することができない」とあり、遺留分は遺言に優先することが明示されていました。
しかし、改正後民法では、当該但し書きが削除され、第1046条第1項において遺留分侵害額の請求権を認める条文が追加されたことで、遺留分の侵害がなされた場合には金銭で解決できるように改正がなされました。
※この記事は2018年12月に公開し、2022年7月に加筆修正して再公開しています。
最新の情報など詳しくは当事務所にお問合せください。